小梅版現代着物の基礎知識その6
着付けのお悩みあれこれ
さて、自分で着物が着られるようになっても、しっくりこない、上手に着られない、どうしても着崩れる、など、初心者のうちはいろいろお悩みがあるかもしれません。ここでは、よくあるお悩みの、原因と対策を考えていきましょう!
○じゅばんのお悩み
まず、着替えながら最初につまづくのはじゅばんの衣紋、衿元、胸元が多いと思います。うまくいかない原因は、そもそも、どうなっていたらきれいに見えるのかわからない場合。これはわかりやすい基準がありまして、衣紋はこぶしひとつ分くらい抜く、衿元はじゅばんの衿の重なる三角形の部分が、喉元、鎖骨の間のくぼみを頂点に正三角形に重なることです。これは見た目で確認できるので、そうなるように衣紋と衿元を合わせてみましょう。また、衿を合わせてからではもう衣紋を抜くことはできません。必ず衣紋を先にぬいてください。
そうやって衿を合わせたら、胸紐をかけて衿元を固定します。固定したはずなのに、抜いた衣紋は戻ってくる、合わせた衿元は下がってくる、よくあることです。まず衣紋が戻ってしまうのは、骨格、姿勢の問題と、仕立ての問題があります。猫背で、肩が前に入っている姿勢だと、衣紋はすぐ戻ってしまいます。着物を着るときは、両方の肩甲骨を中心に近づけるように胸を開き、さらに肩を落とすと着姿がきれいになります。仕立ての問題は、衿の繰り越し(衿のカーブ)が少なかったり、自分の寸法に合わないサイズだと着にくい場合があります。
また、合わせた衿元が下がってくるのは、一つは衿の外側の線が、バストトップより外側を通っているかどうか。実は、じゅばんの衿は、和装におけるブラジャーのようなものなのです。衿はバストトップの上を通り、かつ外側の線がバストトップより外を通ることで、胸を抱き込むように支える役割をします(上の写真の矢印の位置)。バストトップより内側を通っていると、胸の山から谷へ、衿が滑り落ちてしまうのは当然です。それで衿元が下がってしまうのです。
それから、せっかく衿がバストトップを通っていても、胸紐が腰のあたりにかかっていては胸元が開いてしまいます。衿がブラジャーの役割を果たすためには、胸紐がアンダーバストの位置にかかっていなければいけません。これらのことに気をつけることで、じゅばんのお悩みは相当解決するはずです。
でもって、小梅は着付けのお悩み解消ショップなので、このじゅばんの衿元問題を解消するための商品を2つほどご用意しております。一つはガーゼの半じゅばん。身頃が木綿で、別布の袖をつける、いわゆる「うそつき」の一種ですが、普通のじゅばんと違って、脇を縫い閉じていないちょっと変わった形です。ただ、脇が全開なおかげで、最初に好きなだけ衣紋を抜いてから前の衿を合わせれば、もう二度と衣紋は前に戻ってこない優れもの。前のあわせも、衿に紐がついているので、その紐を背中に回して前で結べば、もう衿元も崩れません。
もう一つは、長年の研究、開発の末、遂に完成したTシャツ型の半じゅばん(2014/12~発売予定、もう少しお待ちください!)はじゅばんの衿が付いたTシャツかな?とにかく、Tシャツ型なので、スポッとかぶって、衿元を決めて、ベルクロで固定するだけ。以前からメンズではこのタイプがあったようですが、レディースは衣紋を抜く加工が難しく、なかなかこれという商品がありませんでした。
こちらはサイズが決まっているためにすべての人に100点満点の衿元を作れるわけではないかもしれませんが、最低でも65〜70点はいただけるように考えました。そもそも胸元は開いていないので、胸の谷間に向かって衿が下がってしまうこともありません。衣紋は立体縫製とプラ芯でクリッと抜けるようになっています。とにかく簡単に着たいわという方に特におすすめです。
○着物のお悩み
さて、衣紋と衿元さえ攻略すれば、じゅばんはOK。着物でつまづくのはおはしょりでしょうか。女性の着物は、肩から掛けると引きずるような長さがあり、それをいい長さまでウエストでたくし上げて(=はしょって)着用します。そのたくし上げておなかのところで袋になる部分がおはしょりです。
ここをきれいに整えるのがまたちょっとした難関。うまくいかない原因は、腰ひもをかけたときに、余った布がごちゃごちゃ紐の中に入ってしまっていて、きちんと袋に出せていないことが多いことと、二重になった部分を、一重にすっきりさせるのがちょっと難しいかな?このあたりは、実際に自分で着てみたことのある人でないと「そうそう、そうなのよ」という感じにはならないかもしれません。
腰ひもをしっかり掛けたら、紐より下はすっきりするように、くちゃくちゃしているものを全部引っ張って紐の上に出してください。そうすればまっすぐしたおはしょりが自然に現れるはず。そして、下前のおはしょりを帯の中に折り上げる作業は、左手を身八つ口から、右手を胸元から中に入れ、きれいに慎重に行います。それに、胸紐をかけるまで左手は抜きません。押さえつけるように胸紐をかけるとうまくいきます。
なーんてなんだかいろいろメンドクサイことを言いましたが、お悩み解消ショップの小梅の着物は、着物を巻きスカートと上着にセパレートしてしまいました。おはしょりも、帯を締めた後にちょうどいい長さに作ることができるよう形が工夫してあるので(その7参照)、巻きスカートをはいて、ジャケットを羽織る感覚で着るだけなので、悩むところがありません!
○帯のお悩み
また、着付けの最難関、帯も、普通は長い帯を胴に二巻き、枕をしょって自分で形を作らなければいけないのですから、傾いたりゆるかったりいびつだったり、上手に締められるようになるには、ある程度の経験も必要です。一重太鼓ができても、二重となるとお手上げ、ということもありますね。私も、二重太鼓はなかなか締める機会も少ないので、きりっと締められるようになるまで年月が必要でした。
胴は二巻き水平に巻くこと、適度にしっかり締めること、枕はがっちりつけること、お太鼓とを作って、たれを折りあげるときは、大きさに注意し、胴に巻いている部分の下線とお太鼓の下線をキッチリそろえること、帯揚げはできるだけ慎重に、しわのないように畳んでから結ぶこと、などなど……。ただ締めるのはそう難しくないかもしれませんが、美しく締めるには気をつけることがたくさんあるのです。
しかし、なんだか手前味噌ばかりであれですが、そこはほれ、お悩み解消ショップ(しつこい)の小梅は、お太鼓は全部最初から二部式帯です。胴の部分を巻いてベルクロでばりっと固定、お太鼓の形になったものをフックで背中にかけ、あとは落ち着いて枕や帯締めを締めれば完成です。
二部式帯は、もともと持っている長い帯を切って仕立て直して作る場合がほとんどだと思います。切りたくない場合は、切らないで作り帯にする方法もあるようです。でも小梅の二部式は、最初から二部に仕立てます。時々、普通の名古屋帯はないの?と言われますが、普通の名古屋は扱っておりません。そのかわり、長い帯にはしにくい生地、レザーやファー、ニット、別珍など毛並みのあるもの等、二部式ならではのユニークな素材もどんどん帯にしています。普段着だからできる楽しみですね。
○補正のお悩み
補正のこともよく質問されます。補正には2つの役割があって、一つは着くずれを防ぐ、もう一つは着上がった姿をより美しくする、ことです。着崩れの点では、小梅の着物は紐がついていて着くずれしないので、基本的には補正はなくても大丈夫。
だけど、美しさの点では、やはり補正を入れると入れないでは差が出ます。しなきゃいけない、しなくていい、の白黒ではなくて、補正してきれいに着たいか、しないでラクする方をとるか、それもまたTPOに応じてではないかと思うのです。体の肉付きにもよりますしね。ちなみに私は、やわらかものの時には、胸も腰も補正を入れますが、硬いものの時はお尻の上にタオルを挟む程度。凹凸がないからそれですんでいるのかもしれません。
ただ、胸の補正は鳩胸の人はいらないですが、そうでなければふくよかな方でも鎖骨の下は少し補正があった方がパリッと着られますし、おなかに肉がいっぱいあるから胴の補正はいらないと言い張る方でも、着つける側からみると、女性でお尻の上(ウエストからお尻の斜面)に補正のいらない人はそういないですよ。帯をビシッと締めようとすると、お太鼓の下線がくしゃくしゃしてしまうのです。
だから補正は必要!と言いたいわけじゃないのです。そういう結果ですけれども、ま、普段着だからそれでもエエわ、ということで補正はなし、という判断でも構わないと私は思います。補正が面倒だから着物を着ない、なんてことになってほしくないですからね。ただ、いつもいつも胸元が着崩れてしょうがない、という方は、一度胸の補正を試してみると、解決することがあるかもしれません。なお、補正は長じゅばんの下に入れます。外からチラ見えしないように、鏡でチェックをお忘れなく!
それから、ブラジャーをしたままではダメですか、とよく聞かれますが、包装紙でプレゼントを包むことをイメージしてみてください。平たいものならきれいに包めますが、いろんな形をしているものを、平たい紙で包むのは難しいですね。着物は平面的な縫製ですから、包む中身も平たい方がよいのです。和装ブラをおつかいになるか、せめてホックを外して、平たくできるようにした方がきれいに着られます。ただ、とても豊かな胸をお持ちの方は、ノーブラでは帯の上に胸が乗る形になってしまう場合があります。そうなると老けて見えますので、この場合は「寄せて上げる」ではなく、「上げてつぶす」ような形で抑えられるよう、晒や和装ブラ、補正などで工夫してください。
ちなみに、私は胸の補正は綿花のクッションをガーゼにぬいつけたもの、腰は薄手のタオルを体の凹凸に合わせた形に加工して、ベルト状に紐をつけてあるものを自作して(初心者の時、着付けの先生に作らされました)あり、胸も胴も、補正はワンタッチでつけられるので、特に面倒じゃないんです。頻繁に着る人は、こういうものがあると苦にならないかもしれませんね。
○紐結びのお悩み
それでも何だか着くずれるときは、紐の掛け方がゆるいというのがあるかもしれません。もちろん、紐はきつく締めすぎるときつく苦しいので、自分で苦しくない程度に加減が必要ですが、例えば胸紐は息を胸で吸い込んであばらを開いた状態でキッチリ掛けると、息を吐いたとき適度な余裕ができてちょうどいいのです。胸紐は、結びこぶがあるとゴロゴロするので、結び目は作らず、二重掛けで始末します。
逆に、腰ひもは、ウエスト部分はいつも締めなれている部分だからか、しっかり締めてもあまり気にならないはずです。この紐一本でおはしょりと裾丈とを支える肝心な紐ですからグッと締めましょう。これで裾がズリズリ落ちてきて踏んでしまった、などというトラブルはなくなるはずです。
胸紐も腰ひもも、前から後ろへ回した紐を、また前に戻して結びますが、締めたいときは前にではなく、体の外側へ向かって左右に引くとグッと閉まります。伊達締めもおなじです。そうすると紐の面がしっかり体につきますので、ピタッと沿うように締まるのです。小梅の着物は、胸紐も腰紐も本体に縫い付けてありますが、締め方は同じです。
→その5・今すぐ着るにはどうすればいいの?
→その7・セパレート着物ってどういうこと?